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『長崎クライマーズチャレンジカップ2010』参戦報告

モンキーマジック・インストラクター 免出亮子
(写真:NFA提供)


「すごーい! ホント覚えて登ってる!」


 私の耳に嬉しい声が聞こえてくる。
そして、去年まで多く聞こえていた「右!もう少し右! 足は左!もっと上!」あるいは「そこ、持ち替え! 次アンダー!」などと動きを指示する応援はほとんど聞こえてこない。

息をのんで静かに見守ってくれる観客。時折、絶妙なタイミングでガンバコールをかけてくれる。

モンキーマジックの小林代表が描く「視覚障害者の理想のクライミングコンペ」に向けて、新たに一歩を踏み出したことを実感した瞬間だ。
予選ルートの核心部を前にするショウくん。
オブザベーション(ルートの下見)中の面々。  この『長崎クライマーズチャレンジカップ』から始まったモンキーマジックのコンペへの試行錯誤は、5年目の今年、ようやく次のステップへ向かう光が見えてきた。

視覚障害者が行うフリークライミング、それもコンペにチャレンジする姿を見ると、観客のだれもがホールドの位置や動きなどを教えてあげたくなるようだ。コンペだと分かっていても、それくらいのハンディはあって当たり前と思ってしまうのが人情か・・・。

しかし、「皆の応援の気持ちは嬉しいけど、やっぱり自分で動きを組み立てて登りたいんだよね。ロボットじゃないんだから・・・」とこだわり続けた小林代表。
ナビゲーターから伝えられたホールドの位置を聞きながら動きを組み立て、それを一連の流れとして記憶していく。

「見えていたときからクライミングをしていたからできることでは?」との疑問に「そうかな? でも皆にもいずれ、この方法でやってもらいたいな」と答えていた。
 今年は常連組がそれぞれの理由から参加を見送った。ただ参加するだけでは飽き足らなくなったというのも本音のようだ。

完登したい、勝ちたい、前年よりいい成績を残したい、コンペに参戦する以上は当然の願いだ。自分たちの進歩より早い世間、そして子供のクライマーたちに圧倒されつつも参加し続けてきたが今年はちょっと一休み。

そんな中、初参加の中学生、会田祥くんが目覚しい活躍をしてくれた。若い脳は記憶力を遺憾なく発揮することができる。控え室で小林代表の動きの組み立て過程を目の当たりにして、すぐさま同じ方法を踏襲していく。「分かった!」と彼は言い、その言葉の通り本番では澱みなく登った。

結果は、動きの経験不足からくるミスで惜しいところで落ちてしまったが、完登まであと4手という健闘! 本人もすごく悔しがり、だからこそ間違いなく次に繋がる登りだった。

何より観客を惹きつけ、静かな中に息をのむ緊張感が漂う時が流れた。そして響いた冒頭の声「「すごーい! ホント覚えて登ってる!」
記憶を頼りにハング部分を、アクロバティックな態勢で切り抜けるショウくん。
決勝ルートを登攀中の小林代表。気迫の登り。  小林代表は実力的にはミドル以上のクラスに参戦するのが相応しいのだが、やはり見えにくいことのハンディは歴然とあり、いままで予選突破が叶わなかった。
今回はビギナークラスからの出場で6位入賞。その予選ルートを完登する様子はまさに感動的だった。

鍵となる幾つかのホールドを確認指示する声だけで、あとは自ら組み立て覚えた動きの記憶で、ホールドの下に貼られたスポンジテープを頼りに探しながら登っていく。

視覚障害者だと伝えられていても、かなり見えているのではないかと思ってしまう。手を出す方向は覚えている。ただ、特定するのに少し時間がかかる。そして、足を手で探ること。この動作で「本当に見えていないんだな」と気付かされる。

年々病気は進行し視力は低下しているが、この方法を洗練させ熟達していくことで ”No sight But On sight”クライミングを確立しようとしている。
 今回はいままででは一番少ない2名という参加人数ではあったが、この確かな手応えを得ることができたのは、これまで参加してくれたメンバーたちと積み重ねてきた試みがあってこその結果だ。

そして、私たちモンキーマジックの試行錯誤は、自由でおおらかな環境の中で私たちを受け入れてくれた、長崎の関係者の皆さんの協力があったからこそであり本当に感謝に堪えない。

忙しい中、たった1人のために決勝ルートにスポンジテープを貼ってくれたセッターの皆さん、本当にありがとうございました。
チャレンジカップ会場のクライミングウォール。
開会式で参戦への思いを語る小林代表。

チャレンジカップ1日目参加者の集合写真。
 これからもまだまだ試行錯誤は続けていかなくてはならない。今年の12月に習志野で行われる『視覚障害者クライミング世界選手権』に向けては、アフターワークというカテゴリーもあり、オンサイトゆえのハンディではなく、難度の高い動きそのもの、その組み立てなども強化していかなければならない。

そして、視覚障害者にとっての理想のコンペ像について考え続けていくことが必要だ。課題は山積みである。

しかし、人に指示されて登るだけの“ロボットクライミング”になりたくないという小林代表の願いが少しだけ叶えられた今回のチャレンジカップは、これからの糧となり一つの指標になっていくと思う。

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